2000年11月11日(日) 読売新聞朝刊
第51回日本学校農業クラブ全国大会
「農」と言える21世紀担う

 

 ◆「ピーマン嫌い」なくし 子供と農業「懸け橋」に/熊本県立鹿本農業高

 全国の農業高校生が日ごろの研究とクラブ活動の成果を発表する「第五十一回日本学校農業クラブ全国大会」(日本学校農業クラブ連盟など主催)が、先月二十五、二十六の両日、宮崎市など宮崎県内の二市三町で開かれました。同連盟結成五十周年記念大会でもあり、全国から約六千二百人の生徒らが参加しました。全国各ブロックから選ばれた学校のプロジェクト発表会や意見発表会のほか平板測量、農業鑑定、農業情報処理、家畜審査の四競技会の計六部門で競いました。また、国際交流シンポジウム、歌手のさだまさしさんによる連盟の新しいイメージソングの発表、クラブ員代表者会議も行われました。(ヨミウリ・ジュニア・プレス特別取材班)

 《プロジェクト発表》

 プロジェクト発表会には二十七校が、A部門(農業の経営や流通)、B部門(技術の改善や普及)、C部門(地域の文化や生活)に出場しました。この結果、A部門の栃木県立真岡北陵高は三年連続で最優秀賞を受賞しました。

 C部門 最優秀賞・文部大臣奨励賞「21世紀の小さな天使たちへ―ピーマン大作戦! 種子(たね)から育(はぐく)む愛の原点」(熊本県立鹿本農業高生活科学科三年・野田佳奈さんほか六人)

 子供たちの食生活は、偏食や野菜嫌いが多く見られます。野田さんたちは、そんな子供たちの食生活の実態を知るために、鹿本町立来民(きたみ)幼稚園で食生活調査をしたところ、ピーマンの嫌いな園児が多いことがわかりました。そこで、ピーマンを題材に、「農」と「食」と「子供たち」をつなぐ「食農交流活動」に取り組むことにしました。

 まず幼稚園で、ピーマンのお絵かき会を開き、実際にピーマンに触れた園児たちから、様々な感想を聞くことができました。

 次は栽培。種をまき、土をかけながら、「大きくなあれ」と話しかける園児たち。休日に観察に来る園児もいるなど、ピーマンの生育に興味を持ってくれました。

 害虫のアブラムシを退治するなど、園児たちがピーマンの管理や観察を通して、自然の営みや植物への愛着が確実に芽生えていることに驚きました。

 そして、ピーマンの嫌いな女の子がお母さんと一緒にピーマンを育て、最後は食べられるようになるというお話を紙芝居にして上演したところ、ピーマン嫌いの園児も「食べてみたい」と、とても好評でした。

 

そこで、ピーマン料理の試食会を行いました。献立は子供たちの大好きなハンバーグとクッキー。ピーマンの苦みを消すために、タマネギを多く使ったり、赤や黄色のピーマンをミックスして彩りを工夫したりしました。すると、ピーマン嫌いの子供たち十七人のうち十四人が食べて、「おいしい」と大好評でした。

写真=幼稚園に招待され、一緒にピーマンカレーを作る鹿本農業高生

 

 幼稚園で行われたカレーパーティーに招待され、園児と一緒に、幼稚園で栽培したピーマン、タマネギでカレーを作りました。カレーを作る園児たちのひとみはとても輝いていました。

 野田さんたちは「活動を通して、園児と園児を見守る家族や先生の愛の中に、人をはぐくむ愛の原点があることを実感しました」と話します。簡単に食べものが手に入る時代に、この食農交流活動は、「愛する心」を育てるためにも、今の教育に必要とされていることだと思いました。

 ◆シラネアオイを3年かけ大量増殖/岩手県立遠野緑峰高

 B部門 最優秀賞・農林水産大臣賞「遠野から発信! 守れ日本固有植物―シラネアオイの増殖と保護に関する研究」(岩手県立遠野緑峰高生産技術科三年・有馬隼人君ほか十二人)

 

写真=シラネアオイの培養苗の生育調査を行う遠野緑峰高生

地球上に残っている二十七万種の野生植物のうち、シラネアオイは一科一属一種の植物で、日本の被子植物の中で唯一の固有植物です。しかし、最近の山野草ブームによる乱獲などで急激に減少、名前の由来となった日光白根山を調査したところ、壊滅状態になっていました。そこで有馬君たちは「自分たちで遠野に自生地を再生しよう」と、三年間にわたって研究に取り組み、大量増殖に成功しました。

 

 一年目は、遠野市の協力で遠野周辺の自生地を調査し、シラネアオイを「地域希少植物」とする遠野版レッドデータを作成、自生地をモデルにした見本園を作って、保護を呼びかけました。また、人工交配で一部を培養に、残りは自然の中で発芽を進める「緑峰方式」を考案しました。その結果、自生地での発芽が年々増えていきました。

 二年目は、胚(はい)培養に挑戦、発芽期間を百八十日からわずか十日に短縮できました。しかし、胚の摘出に失敗し、枯死させてしまうといった問題が生じました。

 そこで、それらを無菌植物体として増殖の材料に再利用したところ、一つの胚から二十三本の苗を増殖させることに成功しました。三年目は、雪の下に培養苗を埋没させる方法を考え出し、厳しい自然に耐える強い苗を生産できるようになり、念願だった苗の供給も可能になりました。

 有馬君は「保護活動は周囲の人の協力や理解があってできるもの。夢の実現に向け、これからも研究を続けていきたい」と話していました。

 ◆観光イチゴ狩りにもみ殻利用し堆肥/栃木県立真岡北陵高

 A部門 最優秀賞・農林水産大臣賞「観光イチゴで村おこしを―家族協定制でゆとりあるイチゴ作りを目指した我が家の経営改善」(栃木県立真岡北陵高生物生産科三年・宮崎隆之君、食品科学科一年・宮崎陽子さんほか九人)

 

宮崎隆之君、陽子さん兄妹の一家は、同県益子町で水稲とイチゴを栽培する専業農家です。しかし地域では後継者不足や高齢化などの問題を抱えて農業は低迷、過疎化が進んでいます。このような状況の中、家族で三年間にわたって経営改善に取り組みました。

写真=観光イチゴ狩りにも当番カレンダーを取り入れている宮崎さん兄妹

 

 イチゴ栽培は、特に収穫調整は長期にわたって毎日続く作業。家族労働だけでは規模拡大は難しいのが現状です。そこで、益子焼を求めて訪れる観光客に着目し、イチゴ狩り用にハウスを開放しました。この観光イチゴ狩りで、摘み取りや箱詰め作業が大幅に省力化、安定した収益も得られるようになりました。

 しかし、イチゴ狩りに対応できる土作りが必要になったため、もみ殻(がら)を利用した堆肥(たいひ)作りに取り組みました。実験を繰り返して完成した自家製の堆肥は土壌改良剤として高い評価を受けました。また、隆之君は、オランダ農業研修の体験を生かして家族協定制作りに取り組み、家族六人の休日当番カレンダーを作りました。これによって、一人ひとりの労働負担が軽減されました。隆之君は「将来は、ゆとりを持って取り組めるイチゴ栽培を実現させたい」と話していました。

 ◆8か国の高校生が交流シンポ 

写真=国際交流シンポジウムでは、8か国の高校生らが交流

国際交流シンポジウムは、「育てよう夢 見つめよう未来の農業――農業の魅力とその実践」をテーマに宮崎市のワールドコンベンションセンターサミットで開かれました。韓国や米国から来日した農業高校生と群馬県内の農業高校で学んでいるアジアからの留学生など計八か国の約三百六十人が参加しました。

 

 まず、日本人初の宇宙飛行士で、現在は福島県滝根町で有機農業を営んでいる秋山豊寛さん(58)が基調講演をしました。秋山さんは一九九〇年十二月、宇宙飛行に成功後、テレビ局を退職。九六年からコメや大豆を作りながら、ジャーナリストとして食や環境問題に取り組んでいます。

 秋山さんは、環境破壊で危機にひんする地球を、自分でできることで修復したいと考えます。そして「人間の基本的欲求の『食べること』に関心を持っていたし、空気や水の汚れた都会から逃れたい」と、農業を志しました。

 除草剤を使わず水田へコイを放つなど環境に配慮した実践について話しながら、「作る人が安全、安心を意識しないと、多くの人に影響を与える。健康な大地で食べ物を作ることを考えてほしい」と訴えました。

 続いて、国内外の農業高校生らによる討論に移りました。

 農業の魅力について、パネリストから、「人間の命を支えていること」(韓国)、「多くの人に食べて喜んでもらえること」(日本)といった感想が聞かれました。留学生たちから「日本の進んだ農業技術を学べてうれしい。国に戻ったら、大学で勉強を深めたい」(フィリピン)といった抱負も聞かれました。

 ほかに、世界的な人口増加や環境破壊、日本の食糧自給率の低さなど問題点が指摘されました。二十一世紀を担う高校生たちが、こうした問題を認識し、話し合ったことはとても貴重だと感じました。

 ◆結成50周年祝い式典 イメージソング披露

 日本学校農業クラブ連盟の結成五十年を祝う記念式典は、ワールドコンベンションセンターサミットで開かれました。

 総審査長を務めた豊福雅洋・福岡県立福岡農業高校長は「創意工夫が見られ、全体的にレベルの高い大会だった」と講評を述べました。農業系の高校は、一九七〇年に約六百八十校ありましたが、現在は約三百九十校にまで減っています。しかし、人口増加、食糧不足などが世界的な問題となっている時、二十一世紀の食を担う若い世代への期待は大きく、松形祐尭(すけたか)・宮崎県知事らから、会場の高校生に励ましの言葉が贈られました。

 同連盟のイメージソングの発表もありました。公募した歌詞に曲をつけた歌手のさだまさしさんが作品を披露、会場は盛り上がりました。

 

 《意見発表》   

 意見発表会は宮崎県立芸術劇場で行われ、A(農業の経営や流通)、B(産業人としての生き方)、C(地域の文化や生活)の三部門で、二十七人が発表しました。

 ◆スギのこくず牛のエサに利用/宮崎の篠原さん

 A部門の最優秀賞は、「自然の恵みはすべてごちそう」を発表した宮崎県立高鍋農業高畜産科三年の篠原寿(とし)さんです。

 

肉用牛を育てている畜産農家で育った篠原さんは、飼料不足を解決するため、「スギののこくず」をえさとして与えるプロジェクトに五年前から取り組みました。自宅と学校で飼っている四十八頭の牛に、一日に一回、五百―八百グラムののこくずを与えています。その結果、草を食べさせるよりも胃袋が大きくなること、えさ代などで一頭当たり年間五万円節約できることなどの成果を上げました。

 「草を食べる動物に木を食べさせて大丈夫かと心配でしたが、元気に育ってうれしい」と篠原さん。大学進学後も研究を続け、「安全で安心な日本一の宮崎ブランド牛にしたい」と抱負を語っていました。

 

          

 ◆植物とふれ合い「園芸セラピー」/山形の金田さん

 B部門の最優秀賞は、「信頼」を発表した山形県立置賜農業高生活科学科三年の金田美紀さんです。

 金田さんは二年生の時、老人福祉施設のお年寄りと一緒に、花の苗を植えたり押し花を作ったり、植物とのふれあいで心をいやす「園芸セラピー」に取り組みました。

 

           

お年寄りから笑顔で「まだきてなあ」と言われた時、「将来、介護福祉士になりたい」と思いました。実は、八年前に寝たきりの祖父を亡くし、「もっといろんなことをしてあげれば良かった」と自分を責めましたが、この笑顔がきっかけで、「心の扉が開いた」と言います。

 お年寄りとのふれあい体験を通して、「介護には、思いやりや信頼関係が大切だと実感した」と金田さん。専門学校に進学し、「お年寄りと支え合い、信じ合い、人や自然とのかかわりを大切にできる介護福祉士になりたい」と話していました。

 

 ◆病院で園芸療法ボランティア/熊本の村上君

 C部門で文部大臣奨励賞と最優秀賞を受賞したのは「これだ!私の夢 園芸セラピスト」を発表した熊本県立熊本農業高園芸果樹科三年の村上敦郎君です。

 普通高校に入学した村上君は精神的に苦しくなり、一年で中退。ゆっくりした時間を過ごすうち、庭や畑で植物や土に触れている幼いころの自分を思い出し、農業高校への進学を決意しました。

 

入学して、放課後、草花の管理を続けているうち、心が落ち着き、優しくなれる自分に気づきます。花を学校からもらって帰るようになると、中退が原因で心身を患った母も喜び、快方に向かっていきました。

 花の持つ不思議な力にひかれた村上君は、園芸セラピストの講演を聞いて、園芸療法のことを知ります。現在はこの療法に取り組んでいる病院で、患者と一緒に花を育てるボランティア活動をしています。

 「病院や施設を自然に恵まれ、健康な心で過ごせる場所にしたい」と村上君は夢を語りました。

 

             

 このほかの競技会での最優秀賞の受賞校、受賞者は次の通り(敬称略)。

 【平板測量競技会】 文部大臣奨励賞=佐賀・佐賀農業高(梶原祐治、北原利治、山崎諭)

 【農業鑑定競技会】 園芸=前田和昭(愛知・安城農林高=文部大臣奨励賞)▽農業=山下恵理香(宮崎・日南農林高)▽畜産=池田義嗣(宮崎・都城農業高)▽生活科学=遠山雪乃(北海道・更別農業高)▽食品科学=草野沙和(長崎・諫早農業高)▽農業土木=深田明生(三重・相可高)▽林業=須本孝幸(熊本・芦北高)▽造園=越畑輝好(神奈川・相原高)▽農業機械=樋口豊(栃木・鹿沼農業高)

 【農業情報処理競技会】

 農林水産大臣賞=梶夏樹(千葉・安房農業高)

 【家畜審査競技会】

 黒毛和種の部=中村麻友美(京都・久美浜高)▽ホルスタイン種の部=河原健太(愛媛・野村高)

          

 特別取材班 高1・今泉友来、高橋翔、高2・藪下容子記者

 

作成日: 2000年11月14日 更新担当者: 高1・藤元淳美記者

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