2001年11月7日(水) 読売新聞朝刊
「地域に根差す農」熱い思い 千葉県内で第52回日本学校農業クラブ全国大会 全国の農業高校生が日ごろの研究の成果を発表する「第52回日本学校農業クラブ全国大会」(日本学校農業クラブ連盟など主催、読売新聞社など後援)が10月24、25日、千葉市など千葉県内の3市1町で開かれました。農業系学科のある363校から約5千人が参加、プロジェクト発表会、意見発表会と、平板測量、農業鑑定、農業情報処理、家畜審査の計六部門で競いました。クラブ員代表者会議では21世紀の農業についての熱い思いを語り合いました。「農」を通して、地域おこしや環境保全などへ取り組む姿に、頼もしさが感じられました。(ヨミウリ・ジュニア・プレス取材班) 《プロジェクト発表》
東金市の東金文化会館でのプロジェクト発表には、A部門(農業経営や流通)、B部門(技術改善や普及)、C部門(地域の文化や生活)に、各ブロックから選抜された各9校計27校が出場しました。
◆良質な「巨峰」育成へ逆さ栽培法を確立 福岡県立鞍手農高
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ブドウ園で受賞を喜ぶ鞍手農高果樹班のメンバー
A部門 最優秀賞・農林水産大臣賞「巨峰生産者と共に歩む―さかさ栽培法の確立」(福岡県立鞍手農業高生産流通科3年西沙織さん、西志織さん、同科2年大場稔君ほか六人)
福岡県は、全国有数の巨峰の産地です。しかし、他のブドウに比べ、樹勢が強く、栽培管理が難しいうえ、労働時間も長くかかかるので、生産農家は減る傾向にありました。
そこで、同校果樹班は八年前から、「クリやモモの栽培で、上下さかさまに芽接ぎや高接ぎをすると、樹勢が弱まり、良質の果実が生産できる」という資料を基に、巨峰の「さかさ栽培」に挑戦してきました。
台木に穂木をさかさまに接ぎ、「結果母枝」を二、三芽だけ残してせんていして栽培してみました。その結果、樹勢が抑えられて、房づくりなどの栽培管理も楽になったうえ、糖度も従来品に比べ二度も甘く、大粒の房がそろうことが実証されました。
しかし、問題はさかさ苗木の生産でした。さし木も接ぎ木も失敗。落ち込んでいた時、班員の一人が主枝から気根が出ていることを思い出し、「枝に水ゴケを巻いて発根させ、先端側を切ってみたら?」と提案。昨年暮れに取り木し、発芽した苗を移植しました。そして今年春、苗木の85%が芽を出し、高い成功率を収めました。
この成功は、農業専門雑誌で取り上げられ、地域だけでなく全国の生産農家に大きな反響を呼びました。苗木の繁殖方法は「さかさ取り木法」と名付けられ、特許申請中です。
果樹班代表の岡松雅俊君(三年)は「ここまで来るのが大変だった分、達成感がある。これからは地域への普及とともに、ほかの果樹への応用研究もしていきたい」と語っています。
◆幻のチョウ 人工繁殖 岩手県立盛岡農高
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デワノトネリコの葉裏についたサナギを観察する盛岡農高生(雫石町内で)
B部門 最優秀賞・農林水産大臣賞「蘇(よみがえ)れ!私たちのチョウセンアカシジミ―チョウセンアカシジミの繁殖と保護に関する研究」(岩手県立盛岡農業高生物工学科3年昆亮輔君、主濱由香里さん、佐藤昌史君ほか10人)
チョウセンアカシジミは、自然豊かな農村に生息する日本固有のチョウで、岩手県で一九三七年に発見されました。しかし、乱獲と自然破壊で数が減少、同県雫石町などでは天然記念物に指定しています。
このため、生物工学科では昨年から、町ぐるみで保護活動をしている同町の協力を得ながら、このチョウの人工繁殖に取り組みました。校内に、エサとなるデワノトネリコの木を植えたビオトープを造り、孵化(ふか)を試みました。町から譲り受けた五十八個の卵のうち四十六匹が孵化しましたが、幼虫はクモやアリの被害を受け十匹に減りました。しかし、その十匹がすべて羽化し、七十個を産卵、自然孵化による人工繁殖が確立しました。この過程で交尾の時期や天候条件など、このチョウの定説を覆す生態メカニズムも解明しました。
さらに岩手大などの協力で、短時間に大量に孵化させる方法も開発しました。世界で初めてバイオでデワノトネリコを培養することにも成功、農水省森林総合研究所からも高く評価されました。
メンバーは「チョウセンアカシジミを守ることは、地域農業を守ることにつながる」と、地元の小学生に、保護活動を呼びかけています。昆亮輔君は「これからはデワノトネリコの大量増殖の研究を進めて、チョウセンアカシジミの繁殖地が広がるように活動していきたい」と話していました。
◆米粉でスパゲティ作り 秋田県立大曲農高
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米粉で生のスパゲティを作る大曲農高生
C部門 最優秀賞・文部科学大臣奨励賞「ライスDEパスタ―主食への挑戦」(秋田県立大曲農業高生活科学科3年佐藤麻子さんほか6人)
発表した佐藤さんたちは、昨年度から「米の消費拡大と地域農業の活性化を目指す」をテーマに取り組んでいます。米粉を使った菓子作りに続き、この一年は主食として「生のスパゲティ」に挑戦しました。「ライスパ」と名付けた麺(めん)には、ペースト状のモロヘイヤが加えられているので、緑鮮やかなうえ、カルシウムも豊かです。
完成するまで、何回も実験を繰り返しました。小麦粉で作る生スパゲティと同じ条件で、米粉を麺状にすると、すぐに切れて、舌触りもざらざらでした。そこで「つなぎ」として、粘りのあるかたくり粉や長イモなど五種類の食材を入れて比べてみると、モロヘイヤが切れにくく、色や栄養面でも一番とわかりました。舌触りは、サラダ油とバターを加えると良くなり、生地に対する油脂の割合は2%が最適。生地を冷蔵庫で一時間半ほどねかせることもポイントです。
完成したライスパは、カレーソースやホワイトソースなどとの相性も良く、試食した地域の中学生や農協の女性たちから、「普通のスパゲティと変わらない」と好評でした。
佐藤さんは「家庭で簡単に作れるライスパを通して、若い人にもっと米を食べてもらえればうれしい。商品化されればなおいいですね」と話していました。
《意見発表》
意見発表会は東金市の東金文化会館で行われ、A(農業経営や流通)、B(産業人としての生き方)、C(地域の文化や生活)の3部門で27人が発表しました。
◆中山間地でコゴミ栽培挑戦
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A部門 最優秀賞・文部科学大臣奨励賞「山の幸、僕の夢」(徳島県立三好高生物資源類3年工藤正君)
住んでいる同県山城町はお茶の産地で、工藤君の家でも栽培しています。しかし一帯は、中山間地の傾斜地のため手作業がきつく、過疎化が進んでいます。
工藤君は母親の交通事故で、家事や農作業を手伝ったことをきっかけに、地域の問題を肌で感じ、わが家の経営について見つめ直します。しかし、具体策はすぐには見つかりません。
ある日、山菜作りの新聞記事を見つけます。健康食ブームで、ぴったりだとひらめき、さっそく父親と農業試験場を訪ね、勧められたコゴミの栽培を始めました。順調に二年目を迎えた今年は露地栽培とともに、観賞用としての導入も考えています。
工藤君は「条件的に不利と言われる中山間地を、広く認められる産地に変えたい」と夢を語りました。
◆農業教える幼稚園教諭が夢
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B部門 最優秀賞・同「見つけた! 私の夢」(岡山県立高松農業高園芸科学科3年寺下麻子さん)
友だちは進路を決めたのに、何をしたいのか悩んでいた寺下さん。ある日、幼稚園児と農園で、ジャガイモ掘りをしました。しかし、手足が泥だらけになるのを嫌がる子どももいて、楽しみながら収穫する難しさを実感します。
この体験から、子どもたちと接するのが好きだから幼稚園の先生に、また、大学の農学部に進み、農業を教える先生になろうと、二つの夢が見つかりました。その後「子どもに収穫の喜びや命の大切さを学んでほしいが指導者が不足」という新聞記事を見つけます。「二つの夢を組み合わせよう」と決めます。「農業も教えられる幼稚園の先生になり、農業のすばらしさと大切さをしっかり伝えたい」と抱負を語りました。
◆紙オムツ体験 介護の心知る
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C部門 最優秀賞・同「一枚の紙オムツから知った事」(千葉県立茂原農業高生活科学科3年牛丸麻里子さん)
母親が紙オムツメーカーに勤めていることもあり、家にはたくさんのオムツがあります。しかし、母は販売しているのに、試したことがありません。老人ホームのベッドわきにトイレが置かれているのを見て、紙オムツの研究を始めました。
吸収力や素材などを調べた後、自分でオムツをつけて排せつしてみました。最初は、すぐふろ場に駆け込みましたが、次は我慢して、ベッドに寝てみました。情けなさ、恥ずかしさでいっぱいになり、「お年寄りもトイレで排せつしたいに違いない」と思いました。
この体験から、快適な生活のためには、介護技術に心が伴わなければと実感。「相手の心を理解できる介護福祉士になりたい」と語り、「皆さんもぜひ、紙オムツを体験してください」と呼びかけました。
◆環境問題など討議 代表者会議
クラブ員代表者会議は千葉県立茂原農業高で、群馬県の高校で学ぶアジアからの留学生も参加して、三つの分科会と全体会議が行われました。 「農業の魅力を子どもたちや市民にどう伝えるか」の分科会では、「作物を育てることで、生命の尊さを知り、優しい心が芽生える」「小中学生や市民に農場を開放して、農業体験をしてもらい理解を広げる」など農業高から地域への情報発信が重要との意見が出されました。
「環境問題と農業」の分科会では、「農業を活発にすることで、解決できることもある」「自然分解する資材を利用したり、低農薬野菜を作ったりすることで環境を保全していく」といった意見が出されました。
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日本の農業について真剣な意見が交わされたクラブ員代表者会議
◆他競技の最優秀賞
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農業鑑定競技に取り組む生徒(上)と平板測量に取り組む生徒(右)
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他の競技会での最優秀賞の受賞者は次の通り。(敬称略)
【平板測量】文部科学大臣奨励賞=長野・須坂園芸高(石亀道一、滝口洋一郎、山崎良彦、君島翔太郎)
【農業鑑定】食品科学=廣濱祐子(愛知・安城農林高=文部科学大臣奨励賞)▽農業=仁宮康介(島根・松江農林高)▽園芸=安井寛幸(愛知・稲沢高)▽畜産=平田久子(鹿児島・宮之城農業高)▽生活科学=鈴木美樹(愛知・渥美農業高)▽農業土木=長木豊臣(長崎・諫早農業高)▽林業=西梅慶臣(熊本・矢部高)▽造園=斉藤聡子(千葉・茂原農業高)▽農業機械=桜井一也(長野・下伊那農業高)
【農業情報処理】農林水産大臣賞=苫米地毅(青森・三本木農業高)
【家畜審査】乳牛の部=小林未奈(愛媛・南宇和高)
ヨミウリ・ジュニア・プレス
首都圏の小学5年生から高校生まで約70人からなるジュニア記者集団。大人記者の指導を受けながら取材・執筆活動をし、記事は毎週日曜版の「ジュニア・プレス」面に掲載されています。
(取材班=高1・酒井由夏、高2・冨田知未、濱名未来記者)
作成日: 2001年11月09日
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