2002年11月16日(土) 読売新聞朝刊特集
第53回日本学校農業クラブ全国大会 「環境守る農」様々な工夫 全国の農業高校生が日ごろの学習成果を発表する「第53回日本学校農業クラブ全国大会」(日本学校農業クラブ連盟など主催、読売新聞大阪本社など後援)が先月30、31日、京都市など京都府内の2市3町で開かれました。約360校から3500人が参加し、プロジェクト発表会、意見発表会と、平板測量、農業鑑定、農業情報処理の各競技会の計五部門で競い合いました。クラブ員代表者会議では「農業を守ることは環境を守ること」などをテーマに活発な話し合いが行われました。農業技術の改善や自然保護、安全な食品作りなどに取り組む高校生の姿を紹介します。(ヨミウリ・ジュニア・プレス取材班、高1・中村友子、高2・上田恵、松井香織記者)
《プロジェクト発表》
プロジェクト発表会は亀岡市の亀岡会館で行われ、A(農業の経営や流通)、B(技術改善や普及)、C(地域の文化や生活)の3部門に各ブロックで選抜された9校ずつ、計27校が出場しました。
◆蚕の病気予防を研究/栃木県立真岡北陵高
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蚕のマユを手に、受賞を喜ぶ金鋪君(中央)ら
A部門 最優秀賞・農林水産大臣賞「山間地農業に活路を求めて―後継者が“がんばれる”養蚕農家を目指した我が家の改善」(栃木県立真岡北陵高生物生産科2年金鋪(かなしき)良昭君ほか11人)
養蚕は日本の近代化で、製糸業を支えてきた伝統産業です。益子焼で知られる山あいの町・同県益子町でも、昭和初期ごろまで盛んでしたが、最近は担い手の高齢化や後継者不足などに悩んでいます。
そこで研究班は、養蚕と蚕のエサの桑栽培に携わる専業農家の金鋪君を中心に昨年度から、安全な桑の葉作り、蚕の病気予防などに取り組みました。
まず、桑に散布する有機リン剤などの残留毒性が問題となっていることから、代わりに、炭焼きの副産物としてできる「木酢液(もくさくえき)」を使うことにし、蒸留して薄めた木酢液を桑畑にまきました。その結果、葉の品質は厚く光沢も良くなるなど高まり、蚕は健康に育ちました。
蚕がかかりやすい「うみこ病」の予防では、金鋪君の家で飼育などに使っている十四か所からごみやちりを集め、それをビニール袋に入れ、中で蚕を飼ってみました。病気が発生し、病原菌があるとされた場所は徹底的に消毒しました。また、養蚕の仕事のない冬の間は、シイタケ栽培を始めることで、大がかりな設備投資のいらない複合経営にも取り組みました。
メンバーは、学校で蚕を飼い、繭ができるまでの過程を体験。毎日、新鮮な桑の葉を摘んで食べさせる苦労もありましたが、蚕が糸を吐く神秘的な場面も見て、感動したそうです。繭玉を使ったコサージュ、桑の葉のお茶といった加工品作りも進め、観光客にアピールして地域おこしに、と張り切っています。「養蚕業の存在と魅力を多くの人に知ってほしい」と語る金鋪君が頼もしく感じられました。
◆エーデルワイスの苗培養/岩手県立盛岡農高
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培養苗の生育を調べる盛岡農業高生
B部門 最優秀賞・農林水産大臣賞「岩手から発信! 守れ植物界の宝・エーデルワイス―エーデルワイスの増殖と保護に関する研究」(岩手県立盛岡農業高生物工学科3年山田優也君ほか13人)
かれんな白い花を咲かせる高山植物のエーデルワイスは、日本ではウスユキソウといい、岩手県の早池峰(はやちね)山には、国の天然記念物「ハヤチネウスユキソウ」が自生しています。しかし、盗掘などで絶滅の危機にあります。
研究班では昨年度から、バイオによるエーデルワイスの培養に取り組み、苗の大量増殖と開花、供給に成功しました。培養は、スイスから取り寄せた種子を育て、苗の生長点を摘出し、自生地に近い環境条件の試験管で行ったところ、自然界では発芽まで半年以上かかるのを、10日に短縮できました。
その後、苗を分割して新しい培地に移す際、切れてしまう葉が出ますが、培地の改良で、切れた1枚の葉から30本以上の苗を増殖できました。
ところが、根が伸びず、次々と枯れてしまいました。行き詰まっている時、アイスクリームのへらを細かく切った木片チップに、自生地の土壌を参考に植物ホルモンを添加したアルカリ水を浸透させ、根元に埋め込んでみたのです。すると、根が生き生きとし、苗を増やすことができました。学会でも「大量増殖の成功は前例がない」と評価されました。
さらに、培養苗を一時、土に埋めてから栽培したところ花も咲きました。そして、300本の苗を生産、ふもとの大迫町にある山岳博物館の「エーデルワイスの丘」に植えました。
研究班では夏から秋にかけて毎月、盗掘防止のパトロールやごみ拾い、登山道の整備もしています。山田君は「将来は保護の必要のないありふれた花になってほしい」と語っています。
◆保育園児に手作り給食パン/福岡県立福岡農高
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園児から「おいしい」と好評の手作りパン
C部門 最優秀賞・文部科学大臣奨励賞「輝け福農黄金パン―保育園児と育てた素材をもとに」(福岡県立福岡農業高食品科学科3年岡部朱里さんほか7人)
「見て下さい。パンが黄金色に輝いています」。会場で披露されたサツマイモパンは、まさに黄金パンの名にふさわしい輝きを放っていました。
食品科学科では昨年秋から、地元の保育園児と一緒に無農薬で栽培した野菜を使って、健康で安全な食品を作っています。その1つとして、サツマイモを蒸して、生地に練り込んだパンを焼きました。園長に試食してもらうと、「給食に採用したい」とうれしい返事があり、給食パン作りに取りかかりました。
強力粉、水分、サツマイモの割合を調整して試作を重ねました。焼いてからマッシュポテト状にしたサツマイモを生地に混ぜ込んだところ、独特の甘みを出すことができました。しかし、地元のパン業者から「子供には硬いのでは」と指摘されました。
落ち込んでいた時、メンバーの1人が「ピザ作りの時、強力粉に薄力粉を混ぜると歯切れが良くなる」と書かれた実習のレシピを思い出し、道が開けます。配合実験を繰り返し、強力粉に1割の薄力粉を混ぜた時、歯切れのよいふっくらしたパンを焼くことに成功しました。
成分分析でも、サツマイモパンの方が市販のパンよりも、たんぱく質と繊維が多く、脂肪は少ないとわかり、専門家からも評価されました。岡部さんは「分析に時間がかかり、大変だったけれど、園児たちがおいしいと喜んでくれてうれしい」と話していました。給食パンはニンジンパン、カボチャパンなどと毎月1回、約180人分を納めています。
《意見発表》
意見発表会は八木町の農村環境公園・氷室の郷で行われ、A(農業の経営や流通)、B(産業人としての生き方)、C(地域の文化や生活)の3部門で27人が発表しました。最優秀賞・文部科学大臣奨励賞受賞者は次の3人です。
◆「ブランド豚」ノウハウを分析
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山川忠一郎君
A部門 「最高の瞬間を求めて―これが私の目指す養豚経営」(岐阜県立岐阜農林高動物科学科2年山川忠一郎君)
約千頭の豚を飼育する山川君の家では、ヨモギとビタミンEを加えたエサで育て、出荷時の肉質検査で「上」以上の豚に与えられる「ブランド豚」作りに力を入れています。
農業経営などについて学ぶ山川君は、エサへのこだわりが収支へどのように影響しているかを分析しました。その結果、ヨモギ入りのエサを食べた豚は食欲が増し、普通の豚よりも出荷までの日数が約2週間短く、支出も1頭あたり170円ほど少なくて済むことがわかりました。
尊敬する父のノウハウを基に、新ブランド作りをめざす山川君は、豚舎前の空き地に放牧地を作り、エサにするサツマイモなどを植えました。「食の安全性が求められる時代、消費者との信頼関係を築き、『これ、うまいやん』と言える最高の瞬間を求めて努力します」と抱負を語りました。
◆農業と卓球 両立に意気込み
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真鍋充津子さん
B部門 「右手に摘果バサミ、左手にラケット」(岡山県立興陽高農業科3年真鍋充津子さん)
小さいころから動植物が大好きで、命の大切さ、物を作る素晴らしさを学べると、迷わず農業科に入学した真鍋さん。1年生の実習では、水田のヒエ取りや鶏の解体などを体験、2年生では摘果バサミを手に、モモやブドウの栽培に取り組みました。生き物の命を奪うつらさや手入れの苦労を味わう一方で、収穫の喜びも実感。先生にも恵まれて「教員免許を取り、興陽高に戻りたい」と夢を膨らませるようになりました。
卓球の部活にも熱中し、全国大会でベスト16に入る活躍をした真鍋さんは、大学でも農業と卓球を両立させたいと意気込んでいます。「生徒のことを第一に考えて、一緒に行動できる教師、結果よりもそれまでの過程でがんばる大切さを伝えられる教師を目指します」と語る姿は、とても輝いていました。
◆元気な村を「作り上げる」喜び
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有吉紗耶佳さん
C部門 「村おこしはアイデアから」(熊本県立芦北高林業科3年有吉紗耶佳さん)
9年前、群馬県から母親の実家がある芦北町へ移り住んだ有吉さんは、高齢者が多く静かだった集落を、母や地元の人たちと一緒に活気づけていった様子を語りました。
第一歩は、野菜ばかり並んでいた朝市で、おはぎや山菜おこわなど加工食品の販売を始めたことです。「品数が多くて楽しみ」という声が聞かれるようになり、にぎわいを増しました。
古い民家を利用した「農家レストラン」もオープン、県内外から多くの人が訪れています。有吉さんはそこで皿洗いやピアノ演奏などをし、夏祭りなどの行事やボランティア活動にも積極的に参加しています。
「何かを一から作り上げる喜びと、知恵を出し合って実行することや人間のつながりの大切さを学びました」と有吉さん。卒業後は行政に携わる仕事に就き、地元の活性化に尽くしたいと、希望に満ちています。
◆環境対策など討議/代表者会議
クラブ員代表者会議は園部町の京都府立農芸高校で開かれ、「地域の人に農業の魅力を伝えるには?」「『農業を守ることは環境を守ること』を示すには?」などのテーマの分科会と全体会が行われました。
クラブ員の活動として、小学生とトマトやカボチャを栽培したり、ショッピングセンターで野菜や花の苗を販売したり、地域との交流に力を入れているとの報告がありました。
これからの抱負や課題についても、「自分の汗が収穫に結びついた時の達成感をもっと周囲に伝えたい」「農業と環境を守ることについて、農業高校以外の高校生も一緒に考える場を作る」「無農薬栽培の研究や、生ごみのリサイクルを進めたい」などの意見が出されました。
◆他競技の最優秀賞
他の競技会の最優秀賞受賞者は次の通り。(敬称略)
【平板測量】文部科学大臣奨励賞=群馬・勢多農林高(吉田尚弘、松永大輝、今井由香里)
【農業鑑定】園芸=文部科学大臣奨励賞・中島潤一(千葉・流山高)▽農業=田中一也(新潟・加茂農林高)▽畜産=甲斐純一(宮崎・高鍋農業高)▽生活科学=吉母真澄美(山口・日置農業高)▽食品科学=藤井作夢(神奈川・平塚農業高)▽農業土木=三木応也(北海道・倶知安農業高)▽林業=杉村拓哉(熊本・芦北高)▽造園=日比野泰幸(愛知・稲沢高)▽農業機械=矢沢誠(長野・下伊那農業高)
【農業情報処理】農林水産大臣賞=白鳥充(長野・上伊那農業高)作成日: 2002年11月19日
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