2003年10月25日(土) 読売新聞夕刊特集
第54回日本学校農業クラブ全国大会 食・環境に挑む高校生 全国の農業高校生がふだんの地道な学習や研究の成果を披露する「第54回日本学校農業クラブ全国大会」(日本学校農業クラブ連盟など主催、読売新聞社など後援)が今月8、9日、秋田市など秋田県内の2市2町で開かれました。約350校から3000人が集まり、プロジェクト発表、意見発表、平板測量、農業鑑定、農業情報処理の5部門で競い合いました。よりおいしい野菜栽培、地下水汚染を防ぐ有機肥料作り、生活習慣病を予防する健康パンの開発などに、根気強く取り組む高校生たちを取材しました。(ヨミウリ・ジュニア・プレス取材班)
◆プロジェクト発表
プロジェクト発表は大曲市の大曲市民会館で行われ、A(農業の経営や流通)、B(技術の改善や普及)、C(地域の文化や生活)の3部門に、各ブロックから選ばれた9校ずつ、計27校が出場しました。最優秀賞は次の3校です。
◆糖度高いオリジナルトマト/北海道立更別農業高
![]()
受賞を喜ぶ生徒たち(北海道立更別農業高)
A部門 農林水産大臣賞 「新感覚!ミディトマトの素顔にせまるPart3」(北海道立更別農業高生活科学科3年山中槙子さんほか3人)
「ミディトマト!」の第一声とともに、ステージに照らし出された真っ赤なトマト――。山中さんらが育てたオリジナルブランド「17歳の贈り物」は、甘みと程良い酸味が自慢の、中玉のトマトです。
北海道で近年、収穫量が増えているトマトに着目。糖度を高め、収量も品質も上げることを目標に、校内のビニールハウスで栽培に取り組みました。まず「与える水分を落とせば、糖度が高くなる」と考え、「スピンアウト処理」という技術を取り入れ、少ない水分のもとでも丈夫な根を付ける苗を生産。この苗を使い、水は通しても根は通さないシートを土に敷いて根の広がりを抑え、水も控えながら育てました。この結果、以前よりも甘いトマトが実りました。食塩水に入れて「沈んだものは糖度が高い」として仕分けをし、糖度別に出荷、販売もできました。
しかし、収穫期の後半は、収量が低下するなどの問題が発生。悩んだ末、3年目は、摘花をこまめにし、「リアルタイム栄養診断」という“科学の目”を取り入れ、追肥を行うようにしました。これは葉柄(ようへい)部をすりつぶして硝酸イオン濃度を測り、栄養状態を見る方法です。勘と経験によらず、定期的な測定を続けて、濃度が基準値よりも下がった時に追肥を行いました。
こうした工夫によって、後半の収量を落とさず、10%以上の糖度のトマトが全体の83%を占め、収量を8%増やすことに成功しました。「雨が多くて苦労したけれど、『おいしい』と言われて感動した」と山中さんは話していました。
◆土壌汚さぬ有機肥料の開発/沖縄県立宮古農林高
![]()
手作りのペットボトルろ過装置で調べる(沖縄県立宮古農林高)
B部門 文部科学大臣奨励賞 「宮古の土・水を守れ!土壌蓄積リンの再利用で環境にやさしい有機肥料づくりPart7」(沖縄県立宮古農林高農業工学科3年大井純一君ほか8人)
宮古島は川がなく、飲料水のすべてを地下水に頼っています。しかも、畑にまかれる化学肥料には硝酸態窒素が含まれていて、地下水の汚染源の一つとされています。
そこで、化学肥料に代わる有機肥料の開発に取り組みました。島の土壌には、カルシウムと、化学肥料に含まれるリン酸が反応してできた「難溶性リン酸カルシウム」が多く蓄積されています。このままでは作物に不適なため、水に溶けるリンに変える必要があります。そこで、リン溶解菌を土壌から取り出し、菌のエサとなるサトウキビの搾りかす「バガス」や糖みつとともに畑の土に混ぜました。すると、菌が化学反応を起こし、作物に吸収される形に変わります。こうして作ったのが、「Bio―P(バイオ・リン)」という有機肥料です。
しかし、使用してもらった農家からは「何度もエサを混ぜるのでは、手間がかかる」と注文がつきました。このため、リン溶解菌がより長生きできる方法を調べました。そして、バガスを炭にした「バガス炭」が、菌のすみかとして適していることがわかり、Bio―Pをまいた畑にまきました。ところが「真っ黒い粉で作業服や体が汚れやすい」と苦情が届きました。
そんな時、仲間の1人が「ペレット状(丸い固形状)でも、畑にまいた後は雨などで細かくなる肥料がある」とひらめきます。Bio―Pに粘り気のある糖みつを混ぜることにし、その濃度をいろいろと変えて実験し、手軽に扱える「改良ペレットBio―P」を完成させました。
これを使ってナスを栽培したところ、1本当たりの重さは化学肥料で育てたナスよりも重く、成長が促進されたことが判明。手作りのペットボトルろ過装置で土壌の水質を調べた結果、改良ペレットBio―Pと化学肥料を混ぜた土壌は、化学肥料だけの土壌よりも硝酸態窒素の濃度が大幅に低いことが分かりました。この肥料は、学校や老人ホームの花壇作りに好評です。
◆規格外玄米で健康パン/岩手県立盛岡農業高
![]()
ふっくらした健康パンを手に受賞を喜ぶ(岩手県立盛岡農業高)
C部門 文部科学大臣奨励賞 「めざせ!玄米パンの地域普及〜規格外玄米の有効利用から健康パンを」(岩手県立盛岡農業高農芸化学科3年舘澤美和子さんほか7人)
せっかく収穫しても、粒の厚みが基準を下回り、「規格外」とされた玄米の一部は、廃棄されている。この規格外玄米を使い、健康によいパンを開発、普及できないだろうか――。舘澤さんたちは、まず、玄米パン作りから始めました。
原料は、学校で収穫した規格外玄米と、残留農薬の心配がない岩手県産小麦など。食物アレルギーのもとになるといわれる卵、牛乳、大豆などは入れません。玄米ご飯を炊いて生地に混ぜ、焙煎(ばいせん)した玄米粉も入れて、風味を出しました。保育園で試食してもらうと、「おいしいけれど、お米が歯に詰まる」などの意見があり、さらに改良を進めました。
そして、より食べやすく栄養価も高い「発芽玄米パン」作りにも挑戦しました。手作りの発芽玄米製造機を使い、新鮮な空気と水を循環させることで、短時間での発芽に成功しました。
ところが、いざ発芽玄米を生地に混ぜて、パンを焼く過程では失敗の連続。発芽玄米は水分が多いため、形にしにくかったり、膨らまなかったりしたのです。それでもあきらめずに改良を重ね、ようやく1800個目にして、おいしくてふっくらしたパンが焼けました。しかも、成功したパンは最大52%の発芽玄米を含み、栄養分析の結果、ビタミンB1は白米の8・5倍、食物繊維は10倍も含まれていました。
生活習慣病の予防に役立ち、アレルギーの心配もないこの“健康パン”は、保育園でおやつとして採用され、親子向けにパン作り教室を開いたりもしました。県内外から技術提供による商品化の依頼も来ています。
「健康パンを通して、子どもたちの体と心の健康も守っていきたい」と舘澤さん。かごに入れて掲げたパンからは、食欲をそそる香りとともに、優しさが漂っていました。
《意見発表》
意見発表は鷹巣町たかのす風土館で行われ、A(農業の経営や流通)、B(産業人としての生き方)、C(地域の文化や生活)部門に分かれ27人が発表しました。最優秀賞受賞者は次の3人です。
◆ブランド豚を育てたい
◇A部門 農林水産大臣賞 「八鹿豚(ようか )にかける我が家〜三世代にわたる養豚経営」
小田垣縁(ゆかり)さん(兵庫県立但馬農業高畜産科3年)
![]()
小田垣縁(ゆかり)さん
兵庫県八鹿町の小田垣さんの家は、祖父母の代から続く養豚農家で、母豚120頭、育成豚2000頭を飼育しています。幼いころ、忙しくて家族旅行にも行けない境遇を恨んだこともあったという小田垣さん。しかし、試行錯誤しながら経営拡大していく両親のひたむきな姿を見て、農業高校へ進学。夏休みには茨城県やアメリカの畜産農家で実習、細心の注意が必要な離乳期までの子豚の管理などを学びました。
早速、これまでよりも簡単に子豚を観察できる厚手のビニールの保温箱を作りました。食べやすく腐りにくい人工乳のエサも考案、飼料代の節約に成功。離乳期までの発育が良くなったことで、出荷までの日数を2週間短縮、経費を抑えることもでき、地元のスーパーで「八鹿豚」として販売されるようになりました。「『豚肉は八鹿豚が一番』と言われるように最高のブランドにしたい」。小田垣さんは抱負を語りました。
◆獣医師の厳しさ体験
◇B部門 文部科学大臣奨励賞 「獣医師になりたい!〜動物の死を見つめて考えたこと」
河合茉莉子さん(富山県立中央農業高畜産科2年)
「やさしい獣医師になる」。それが、河合さんの幼いころからの夢です。大好きな動物の勉強ができる農業高校に入って間もなく、生まれたばかりの子牛が自力で立ち上がろうとする姿を見て、夢を大きく膨らませました。
![]()
河合茉莉子さん
しかし、自らの手でブロイラーを解体、調理して口にした時、「私は家畜たちによって生かされている」と実感。その後の実習でも、家畜の死を見つめ、命の重みを教わることで、ペットではなく「家畜の獣医師になろう」と決意しました。そこで、夢への第一歩に牧場で酪農実習を始めました。そこで獣医師から「助かる病気でも治療代と牛がかせぐお金とを比べて、もうからないと判断したら処分する時もある」という厳しさを学びました。
「私たちは家畜の命をもらって生きていることを忘れないでほしい」と河合さん。将来は、生産者と消費者の信頼関係を築く家畜の獣医師になりたいと張り切っています。
◆植物の力を高齢者へ
◇C部門 文部科学大臣奨励賞 「地域福祉にかける私の夢〜農業の力を福祉に!」
小松明日香さん(秋田県立大曲農業高生活科学科3年)
小学生の時からボランティアに関心を持ち、秋田県太田町の特別養護老人ホームで毎週、活動をしている小松さんは、農業と福祉の共存について夢を語りました。
![]()
小松明日香さん
花や植物と接することで五感を刺激し、痴呆(ちほう)のお年寄りや後遺症を残す人に良い効果をもたらす園芸療法を知った小松さん。早速、ホームにマリーゴールドやスイカなどを植え、夏には甘いスイカが食卓に並びました。
さらに昨年、友人と福祉サポートグループを結成。学校近くの病院にプランターを持って行き、花の手入れをするなどしています。たくさんの人から声をかけてもらい、コミュニケーションの輪が広がっているのを感じています。
将来は、地域福祉の複合施設を作るのが夢。「地域のみんなが自然な形で高齢者とかかわり支え合う、温かい地域福祉を目指したい」と、小松さんは、農業の力を存分に生かせる介護福祉士になるための勉強に力を入れています。
他の競技会の最優秀賞受賞者は次の通り。(敬称略)
【平板測量】文部科学大臣奨励賞・国土交通省国土地理院長賞=佐賀・佐賀農業高(前田義実、座木伸吾、堤功一)
【農業鑑定】畜産=福田真也(愛知・安城農林高=文部科学大臣奨励賞)▽農業=長井彩香(新潟・加茂農林高)▽園芸=和泉冬子(同)▽生活科学=久冨純(埼玉・杉戸農業高)▽食品科学=平石貴之(群馬・勢多農林高)▽農業土木=松岡光記(愛媛・伊予農業高)▽林業=角川雄亮(山形・村山農業高)▽造園=野口洋輔(京都・農芸高)▽農業機械=竹本英史(熊本・熊本農業高)
【農業情報処理】農林水産大臣賞=中澤知哉(群馬・中之条高)
《取材を終えて》
普通科高校に通う私たちは、ふだん、農業を学ぶ人とかかわる機会がありません。今回の取材で、経営や農業環境の改善などについて真剣に調べ、問題の解決にも貢献していることを知って驚きました。
健康によい食品を開発し、特許の申請まで進めるグループ、毎日、動物の命と向き合っている生徒……。大人顔負けの発表も、枠にとらわれない柔軟な発想力と、将来への希望に満ちた高校生だからこそ、できるのかもしれないと思いました。
身近な植物や動物、地域の子どもたちや高齢者、すべての生き物の命を守ろうとする姿を見て、私たちも身の回りの環境問題などに目を向けていこうと思いました。
(取材班=高2・戸祭あゆみ、高3・酒井由夏記者)
◇ヨミウリ・ジュニア・プレス 1984年創設。首都圏の小学5年から高校生まで65人からなるジュニア記者集団。大人記者の指導を受けながら取材し、書いた記事は毎週月曜日(大阪本社管内は火曜日)の朝刊「ジュニア・プレス」面に掲載されている。作成日: 2003年10月31日
最上部へ ホームへ Copyright (C) 1997-2001 Yomiuri Junior Press 記事を読んだ感想を聞かせてください! メールアドレス:junior@yomiuri.com