2004年11月11日(木) 読売新聞夕刊特集
第55回日本学校農業クラブ全国大会 「農」の将来、見つめて 人間が生きる基盤である農業への関心が若者の間で薄れつつある中、農業の将来や地域の問題に真剣なまなざしを向ける高校生がいます。全国約350校の農業高校生2800人が、日ごろの研究成果を発表する「第55回日本学校農業クラブ全国大会」(日本学校農業クラブ連盟など主催、読売新聞社など後援)が先月20、21の両日、横浜市のパシフィコ横浜など神奈川県内七会場で開催されました。ブロック大会を勝ち抜いた代表などが、プロジェクト、意見の両発表会、農業鑑定、平板測量、農業情報処理の3競技会の5部門で競い合いました。(ヨミウリ・ジュニア・プレス取材班)
●農業鑑定
◆幅広い知識競う
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山本りささん
農業、園芸、畜産など9分野の専門知識を競う農業鑑定競技会は、相模原市の県立相原高校で行われました。1034人が各分野40問の問題に各問20―40秒で答えていきます。
植物や道具の実物が置かれ、名前や使い方を答える問題など幅広い知識が要求され、参加者のまなざしは真剣そのもの。生活科学分野で最優秀賞・文部科学大臣奨励賞に輝いた愛知県立新城高校3年の山本りささんは「県大会では2位だったので、全国で1位になれるなんて信じられない」と語っていました。
ほかの分野の最優秀賞受賞は次のみなさんです。
農業=愛知・猿投農林高、池田聡恵▽園芸=同・安城農林高、高橋宏季▽畜産=岐阜・岐阜農林高、小栗実▽食品科学=愛知・安城農林高、岩島典子▽農業土木=愛媛・伊予農業高、松岡光記▽林業=埼玉・秩父農工高、井上陽広▽造園=京都・農芸高、野口洋輔▽農業機械=長野・上伊那農業高、倉沢甲志
◆高校生リポーター奮闘
全国大会の各会場では、日本学校農業クラブ連盟の月刊機関誌「リーダーシップ」の高校生リポーターたちがカメラやマイクを片手に駆け回っていました。
同誌では全国大会の様子を12月号で特集することにしており、今年も神奈川県内5校の開催運営校の約50人が取材に協力しました。写真部員もいますが、ほとんどの生徒は取材経験がありません。
県民ホールの意見発表会場では、平塚農業高校生8人が、発表を終えた1人1人にインタビューしていました。
リポーターの1人、秋山美由紀さん(2年)はびっしりと書き込んだメモ帳を手に、「責任が重いので気乗りしなかったけれど、全国から来た農業高校生に話を聞くのはいい刺激になった」と話していました。
●プロジェクト発表(各区分最優秀賞)
各学校での研究や開発の成果を競うプロジェクト発表会は横浜市の県民ホールで行われ、食料、環境、文化・生活の3区分に各9校が出場しました。
◆食料区分 農林水産大臣賞
規格外びわのソーセージへの応用 長崎県立大村城南高
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びわソーセージ作りに取り組んだ生徒たち(大村城南高食品製造部)
食料区分で、最優秀賞・農林水産大臣賞に輝いたのは、「地元農産物の有効利用法に関する研究 第3報 規格外びわの付加価値対策 ソーセージへの応用」をテーマに発表した長崎県立大村城南高校(園芸科学科3年早野真一君ら9人)です。
長崎県は全国で第1位のびわの生産地です。しかし、少しの傷や病気で規格外品として処分される量は生産量の1割にも上ります。地元の農産物を生かした食品開発に取り組む同高食品製造部は、規格外びわを利用し、産官学の連携で3年かけてびわ入り豚肉ソーセージを完成させました。
びわに含まれる脂溶性ビタミンは肉と一緒に食べると吸収がよいことに着目、子どももお年寄りも大好きなソーセージに混ぜ込むことを思いつきました。一昨年は基礎知識を学び、昨年からソーセージ作りを始めましたが、最初は水っぽくてとても食べられる代物ではなかったそうです。
そこで、大村市内で農業交流施設「シュシュ」を経営する同高卒業生、山口成美さんの意見を聞きながら、何十回も試作を重ねました。その結果、水分を絞ったびわの繊維を20%(ソーセージ1本あたりびわ7、8個分)添加することでおいしいソーセージができることが分かりました。
びわは皮をむくと果肉が褐色に変わることも悩みの種でしたが、県工業技術センター研究員、河村俊哉さんのアドバイスで、果実をアスコルビン酸溶液に浸すことで解決。さらに、びわの葉のエキスを入れた湯でボイルし、防腐効果も得られました。
完成したびわソーセージは、市販の製品に比べてビタミンAが12倍、塩分は約半分となりました。今年7月、ついに「シュシュ」で商品化。評判は上々で、2か月間で1600本も売れました。私たちも試食しましたが、フライパンで焼くと食欲をそそる甘い香りが漂い、塩分控えめのさっぱりした味わいでした。
部長の早野君は、「新しい加工品でびわをアピールしたい一心だった」と話します。ユニークな発想は故郷への愛情と誇りの表れだと思いました。14日の文化祭でも販売します。
◆文化・生活区分 文部科学大臣奨励賞
アレルゲン除去ケーキの完成 山形県立置賜農高飯豊分校
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パソコンを巧みに使った発表(置賜農高飯豊分校)
文化・生活区分で最優秀賞と文部科学大臣奨励賞に輝いたのは、「食物アレルギーの理解を求めて〜アレルゲン除去ケーキの完成と地域交流」という発表をした山形県立置賜(おきたま)農業高校飯豊(いいで)分校農業科3年の大宮真由美さんら8人です。
近くの保育園で、食物アレルギーでケーキが食べられない園児がいることを知ったのが研究に取り組むきっかけでした。卵、小麦、乳製品のアレルゲンを取り除いたケーキ作りに挑戦しました。
無農薬栽培の玄米粉が原料。卵を入れずにふっくらとした生地を作るため、6か月にわたり試作を繰り返しました。玄米と甜(てん)菜(さい)糖の配合、重曹の使用、火加減の調節で見事、ケーキが膨らみました。園児たちに喜んで食べてもらったほか、地域で試食会やフォーラムを開き、食物アレルギーへの理解を求めました。
ほかにこの区分では、実際に犬を連れて捨て犬防止の啓発活動について発表した鹿児島県立鹿屋農業高校、外国人観光客に向けた英語のバス時刻表などを作成した北海道ニセコ高校など、地域の社会福祉や振興に取り組んだ学校もありました。
◆環境区分 文部科学大臣奨励賞
◆蘇れ! ふる里の 谷津田 千葉県立茂原農高
環境区分では千葉県立茂原農業高校(3年・小高大介君ら10人)の発表「蘇(よみがえ)れ! ふる里の谷津田」が最優秀賞と文部科学大臣奨励賞を受賞しました。地元で30年来放棄され荒れ果てた山間の水田を再生した記録です。ヤブと化した農道や用水路を修復して水田を開墾、さらにため池まで造成し、貴重な水辺の生き物も戻ってきました。肉体的にもきつい作業を毎週末続けてきた活動が評価され、メンバー全員が喜んでいました。
●意見発表
◆「地球農民としての私の自覚」 静岡県立磐田農高2年・平野耕志君
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静岡県立磐田農高2年・平野耕志君
横浜市の県民ホール大会議室での意見発表会には、食料、環境、文化・生活の3つの区分にそれぞれ9人が参加しました。
文化・生活区分の最優秀賞と文部科学大臣奨励賞を受賞したのは、「地球農民としての私の自覚」と題した発表で、オーストラリア留学の経験などを語った静岡県立磐田農業高校2年の平野耕志君です。
広大な農場で牛や羊を飼うホストファミリーは家族1人1人に役割があり、誇りと自信に満ちあふれていたそうです。また、平野君の父は、若いころアメリカに学び、持ち帰ったスプーン1杯のキウイフルーツの種子から苗を育て、今では国内最大級のキウイ農園を経営しています。そこに農業研修に訪れる国内外の青年たちとの出会いを通し、「農業を志す者は、国を超えてもみな同じ仲間」との思いを強めたといいます。
平野君は「未来のために世界の仲間と交流を深め、農業は地球の土台だと訴えていく」と、こぶしに力を込めました。大学進学、留学を経た後に、農園を継ぎたいと話し、グローバルな農業を先導していこうという頼もしさを感じました。
◆有機ごみを堆肥に 65歳の高3生・木村幸雄さん
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65歳の高3生・木村幸雄さん
環境区分で「堆(たい)肥(ひ)作りを学んで」を発表したのは大阪府立園芸高校3年の木村幸雄さん(65)です。木村さんは中学卒業後、洋服店に就職し、3年前に定年を迎えました。再就職先が見つからなかったため、趣味の園芸を学びたいと入学しました。
木村さんは、花壇の植え替えの際に、咲き終わって放置されている草花などの有機ごみを堆肥に変える活動に取り組んでいます。町を花でいっぱいにし、それを土に返すサイクルを地域に根付かせたいと語り、最優秀賞と文部科学大臣奨励賞を受賞しました。花屋に就職も決まり、「今後は仕事とボランティア活動を並行して頑張っていきたい」と話していました。
食料区分では、「胚(はい)移植をいかした乳肉複合経営をめざして」を発表した山形県立置賜農業高校3年の松木峻太君が最優秀賞と農林水産大臣賞に輝きました。
ほかの競技会の最優秀賞は以下の通り(敬称略)
【平板測量】文部科学大臣奨励賞・国土交通省国土地理院長賞=沖縄県立南部農林高校(富底憲幸、新垣佑典、大城竹幸、末吉貞舗)
【農業情報処理】
愛知県立安城農林高校・木島加央里
《取材を終えて》
私にとって農業高校は遠い存在でしたが、大会を通じて農業高校の教育の高さや、生徒の意欲や技術力にひたすら驚きました。生物の教科書で見るような研究を行い、学会などでも発表しているとは、同じ高校生として誇らしい思いです。(高1・上野みづき記者)
本当に好きなことを学んでいる人間は輝いています。資金や労力をつぎ込み、地域と連携した研究が行える農業高校にあこがれを抱きました。私もしっかり勉強して、大学では自分が学びたいことに取り組みたいです。(高1・硲ゆか記者)
台風や地震で野菜が高騰してもどこか傍観者の私。しかし、一方で、研究や活動を通じ食料の安定供給や環境改善に取り組み、地域社会に還元しようと努める高校生がいることに頭が下がる思いでした。農業高校生たちの目は私よりもずっと先の未来を見据えていました。(高3・中村友子記者)
〈ヨミウリ・ジュニア・プレス〉 首都圏の小学5年から高校3年までの65人からなる子ども記者団。取材から執筆までを担当し、毎週「KODOMO 伝える」面を作っている。作成日: 2004年11月12日
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