2006年11月12日(日) 読売新聞
第57回日本学校農業クラブ全国大会 若い「農」力、夢いっぱい 日ごろ、農産物の栽培技術の研究や地域の環境保全などに取り組んでいる農業高校生の実践発表の場である「第57回日本学校農業クラブ全国大会」(日本学校農業クラブ連盟など主催、読売新聞社など後援)が、先月25、26日、松山市など愛媛県内の4市で開かれました。全国の約350校から2000人余が集まり、プロジェクト発表、意見発表などの計6部門で競い合いました。チャレンジ精神豊かな若い力で、新たなメロンの栽培法を開発したり、里山の動植物を守ったりしている高校生を取材しました。(ヨミウリ・ジュニア・プレス取材班)
■プロジェクト発表
プロジェクト発表会は松山市の県民文化会館で開かれ、食料、環境、文化・生活の3区分で計27校が発表しました。地域を活性化させたり、数年にわたって地道に続けたりしている実践が目立ちました。最優秀賞は地元愛媛県の高校が独占しました。
味も見栄えも申し分のないメロンを収穫して喜ぶ愛媛大農学部付属農業高の生徒たち〈食料〉農林水産大臣賞 「果物の王様! マスクメロンに魅せられて〜新たな機能を有する栽培法開発への取り組みと普及へ向けて」(愛媛・愛媛大農学部付属農業高)
◆メロン栽培法、独自開発成功
総合学科3年中西清大(せいだい)君ら5人は、温暖で日照に恵まれた気候が、特産のミカンだけでなく、メロン作りにも適している点に着目。より収量が多く、質の高いメロン栽培に取り組み、「可変式空間有効利用型栽培法」の開発に成功しました。
この栽培法は、スギやヒノキの樹皮、もみがらを炭化させた有機質資材で作った培地を入れた栽培用エコポットに、メロン苗を植えて、ビニールハウス内の約2・3メートルの高さからチェーンでつり下げる方法です。ポットを上下左右、自在に動かし、葉や果実により多くの光をまんべんなく当てて、光合成の量を増やすことができました。
ポットには、ポンプとチューブを通して培養液が送られ、根には十分な養分と酸素が与えられます。余分な培養液はポットの下に置かれたバケツに集められ、病原菌が含まれていないことを確かめた後、ポットへ戻します。この結果、つる枯れ病などの被害を完全になくし、収穫個数を増やすことに成功しました。重さは平均で2キロ・グラムを超える大玉となり、糖度は15・6度、形もネットの張りも美しいメロンが実りました。
今春から、同大農学部付属農場と農家で試験栽培を始め、普及の第一歩を踏み出し、栽培法について特許も出願しました。こうした研究は、審査員から「学術的にも優れている」と高く評価されました。中西君は「培地を無菌状態にするため、高温の蒸気で殺菌消毒する作業が大変だったが、一致団結して取り組み、受賞できてうれしい」と感激していました。
〈環境〉文部科学大臣賞「甦(よみがえ)れ!! 塩屋の海浜植物群落〜産・学・官・ボランティア団体・メディア連携による生態系保全活動」(愛媛県立伊予農業高)
◆3年がかりで浜の植生復元
環境開発科3年三好太智(だいち)君ら8人は瀬戸内海に面する塩屋海岸で、オカヒジキやハマニガナなどの海浜植物群落の復元に取り組んだ3年間の活動を発表しました。
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塩屋海岸に、海浜植物保護を呼びかける手作りの看板を設置した伊予農業高の生徒たち
分布調査では、2004年秋の台風被害で、砂浜に自生するオカヒジキが約300株から3株に減っていることを確認。そこで、寒天を溶かして砂に混ぜた育苗ポットを開発し、種をまいて発芽させた後、自生地に移植しました。ポットで育てた株は、市販のポットで育てた株よりも草丈の伸びが良く、漂着した種の発芽分も含めて、台風前の株数に回復させることに成功しました。
同海岸から姿を消したハマニガナは、実験後に掘り取ることを条件に、富山県の氷見市海浜植物園から株を分けてもらい、生育条件の整った砂浜の安定帯に植えました。しかし、冬に飛砂が発生したため、砂に埋まってしまいました。落ち込んだものの、この飛砂現象を解明しようと、ペットボトルを利用した飛砂量測定装置を作って海岸に設置し、9か月間測定しました。その結果、海浜植物が身を盾にして、道路への飛砂を防いでいる役割の大きさを改めて実感します。
海岸のゴミ拾いを行ったり、植物が引き抜かれている問題を知ってもらうためにテレビに出演したりして活動を広げました。
〈文化・生活〉文部科学大臣賞「エンジョイ『菜の花フェスタ』――6年間の実績と交流活動」(愛媛県立大洲農業高)
◆高校生の力で地域イベント
大洲市を流れる肱(ひじ)川の河川敷「畑(はた)の前橋」一帯約1・2ヘクタールは、同校の生徒が菜の花やヒマワリ、コスモスなどを植えて、住民の憩いの場所になっています。5年前からここで、春分の日に、同校生が開いているイベント「菜の花フェスタ」の発表は、「地域に密着した行事を高校生自らが主催し、継続していてすばらしい」と高く評価されました。
凧揚げを楽しむ大洲農業高の生徒と地域の子どもたち企画メンバーの食品化学科3年石尾貴浩君ら9人は、昨年まで5回の内容を振り返り、今年は、食品を販売するだけでなく、子どもたちとの交流活動を活発にしようと、特産の大洲和紙を利用した「凧(たこ)揚げ」を企画しました。
凧作り名人に作り方を教わり、子どもが喜ぶような絵を描いた60個の凧と、糸巻き器を製作。当日は、凧揚げに350人が参加、メンバーが用意した凧のほか、小学生が作った凧も、空高く舞い上がりました。
菜の花が咲き誇る会場では、石尾君らが食用菜の花の新芽を生地に混ぜて作った菜の花餅(もち)の販売や、ウサギやポニーとの触れ合いコーナーなどもあって、来客数は約1万人と、1回目の4倍に増えました。石尾君は「河川敷で食用菜の花の栽培も始めました。来年は、訪れた人に持ち帰ってもらいたい」と張り切っています。
■意見発表
意見発表会は今治市のグリーンピア玉川で開かれ、食料、環境、文化・生活の3区分で27人が発表、次の3人が最優秀賞に輝きました。
〈食料〉農林水産大臣賞「ドリーム・COW・トゥルー」(鹿児島県立鹿屋農業高3年久留須(くるす)康裕君)
◆畜産経営に情熱
「自分の力で肉生産・発育能力の高い子牛を生産したい」。これは中学生の時、牛の魅力にとりつかれて以来、ますます情熱を燃やす久留須君の夢です。
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久留須康裕君
夢を実現するため、畜産動物学科で学ぶかたわら、肉牛を育てている父と将来の経営について話し合いました。「年間の子牛出荷頭数を現在の35頭から50頭以上にする」などいくつかの目標を立て、問題点の解決策を考えました。母乳の飲み過ぎによる子牛の下痢を防ぐため、好きな時に飲める自然哺乳(ほにゅう)から、時間を決めて与える制限哺乳への切り替えなどを考え、学校でも実験的に取り組んでいます。
「うまく話せるように早口言葉も練習した」と笑顔で受賞を喜ぶ久留須君は、卒業後は農業大学校で専門的な知識と技術を身につけたいと意欲的です。
〈環境〉文部科学大臣賞「蘇(よみがえ)れ! 里山の自然」(石川県立翠星(すいせい)高3年池松俊哉君)
◆里山再生したい
小学5年の時から、里山の自然保護活動に参加している池松君。富山県の自然博物園「ねいの里」の周辺で、動植物の生態調査や里山での間伐、下草刈り、ビオトープ作りなどに取り組んでいます。中でも、同世代の仲間と工夫したのは、サンショウウオが生息するビオトープの周囲に、観察用の木道を設け、木道と地表の間に空間を設けたこと。サンショウウオが産卵する際、山と池を行き来しやすくなり、年間で最大80の卵の固まりを確認しました。
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池松俊哉君
高校のバイオサイエンス研究会では、絶滅が危惧(きぐ)される野生ランの苗を地域の人と一緒に里山へ植える活動などを行っています。「里山をよみがえらせることは、自然と人間が共存するために不可欠」と池松君。大学に進学し、「将来は農業高校の教師として後継者を育て、里山再生の輪を広げたい」と希望に満ちていました。
〈文化・生活〉文部科学大臣賞「伝えたい『ありがとう』」(長崎県立北松農業高3年永田愛里さん)
◆亡き祖母に感謝
永田さんが、「ありがとう」の言葉を伝えたい人は、共働き家庭で幼いころ世話をしてくれた祖母です。
ヘルパーとして働く母を見て、介護の仕事に就きたいと思っていた永田さん。しかし、小学3年の時に祖母が亡くなると、「介護と人の死がどうしても切り離せない。つらい思いはしたくない」と、夢は薄れました。しかし、「仲良くなった人が亡くなっても、納得のできる介護ができたら、この仕事は嫌にならない」と母に言われ、再び介護士を目指します。
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永田愛里さん
昨年、1年間の講義と実習を終えて、ホームヘルパー2級の資格を取得。3年になってからは、地域の特別養護老人ホームで週4時間の実習を行い、祖母にしてあげられなかった分も誠意を持って取り組んでいます。「相手の気持ちがわかり、喜びも悲しみもすべてが誇りといえる介護士になりたい」と語っています。
◆意識向上策などを代表者会議で議論
クラブ員代表者会議は、松山市の愛媛大農学部付属農業高で開かれ、全国から集まった約280人が、「クラブ員としての意識向上や興味、関心を持たせるには」「クラブ員の意識のあり方を考えよう」などのテーマで、事例発表と情報交換を行いました。
島根県立出雲農林高3年佐藤平一朗君ら4人は、校内で犬やモルモットなどを飼って、小動物園として地域に開放し、校外でのイベント会場に動物を連れて行く「移動動物園」の活動などについて発表。「地域の人と交流し、喜んでもらえるとうれしい」と佐藤君は話していました。
ほかの競技会の最優秀受賞者(敬称略)
【平板測量】文部科学大臣賞・国土交通省国土地理院長賞=群馬・勢多農林高(今井慶介、川畑達也、吉沢彩香、立木亜実)【農業鑑定】農業=文部科学大臣賞・中島隆一(愛媛・愛媛大農学部付属農業高)▽園芸=近藤俊子(新潟・加茂農林高)▽畜産=岩佐肇(岐阜・岐阜農林高)▽生活科学=木曽さおり(愛知・猿投農林高)▽食品科学=藤木亜弓(愛知・安城農林高)▽農業土木=中沢雅幸(新潟・加茂農林高)▽林業=古田敏也(熊本・芦北高)▽造園=寺西政人(愛知・稲沢高)▽農業機械=高橋一幸(岩手・岩谷堂農林高)【農業情報処理】農林水産大臣賞=杉山直生(愛知・安城農林高)【家畜審査(乳牛の部)】農林水産大臣賞=高橋直也(北海道・富良野緑峰高)
■取材を終えて
プロジェクト発表を聞いて、どれもレベルが高く、驚きました。時間や手間を惜しまず一生懸命に取り組んでいる生徒を取材し、熱中できることを持っている人は素晴らしいと思いました。(高2・浮津亜由美記者)
普通科高校に通う僕にとって、農業高校生の取材は新鮮でした。意見発表会・食料部門を聞いて、育てている牛への愛情と、米や果物作りへの熱意が伝わってきました。堂々と夢を語る姿が頼もしかったです。(高2・鈴木広大記者)
クラブ員代表者会議の会場では、県内の高校生が作ったミカンジュースがふるまわれ、温かい気持ちに包まれました。特産のミカンを利用した加工品作りを通して、地域の活性化にがんばっている高校生に感心しました。(高3・関根万里子記者)作成日: 2006年11月14日
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